A:満開の女王 ルナテンダークィーン
キミは、夜空に見える流れ星が、遠い宇宙の果てから飛来してきた石だと知っているかね?通常は大気圏で燃え尽きるが、大きければその限りではない。特に山の如く大きな巨岩が落ちてきた場合、燃え尽きずに地表に落着し、大爆発を引き起こすのだ。その際、植物の種子を含む土が、星外へと弾き飛ばされていたら?そして、月面へ到達して花開いたとしたら?
長き時が経てばサボテンダーも、ルナテンダーへと進化するはず!嗚呼、証明したい、花咲く「ルナテンダー・クイーン」の存在を!
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
あたしと相方の家のあるグリダニアのラベンダーベッドから通うのでは如何せん距離があり過ぎることもあり、このオールドシャーレアンに滞在し始めてもう数カ月経つ。季節にもよるのだろうが北洋はもっと寒いものだと思っていたのだが湿気が少く、からっとしていて快適だし、それなりに防寒すれば寒さも大したことはなくて寧ろ過ごしやすく感じる。最初の頃は名物だと教えられた賢人パンを食べて酷い目にあったり、気候や環境の違いで苦労もしたが、ここの暮らしにも随分慣れ顔見知りも増えてきた。
例えば、仕事で出ているとき以外の朝は陽が昇って町が動き出す頃に二人そろってノソノソ起き出し、家を出て石畳の細い階段を港の方へ降りる。途中、毎朝階段を掃除してくれているおばさんや、植木の手入れをしているお爺さんと挨拶をかわして少し立ち話をすることもある。
港まで下りてくると、店に魚を納品し終えて空き時間の出来た漁師の若い連中がその気もないのにからかってくる。学術都市とはいっても下町はどこもこんな感じだ。
そうこうしながら港の脇にあるオールドシャーレアンのカフェ「ラストスタンド」へと入り遅めの朝食をとる。この店の海に面したウッドデッキテラスは寝ぼけたまま来ても海風が気持ちいいし雰囲気がいい。知識の集積にばかり夢中で食への興味を無くしたシャーレアン人中心の学術都市にあって唯一、このカフェレストランの食事は旨かった。あたし達が酒豪なら休みの朝食ついでにワインでも飲むのだろうが、あたし達は二人そろってお酒が弱い。ホットミルクや紅茶を飲みながら、朝食をとるのが大体のルーティンだ。食事を終えてのんびり紅茶を飲んでいるとまた一人、あんまりうれしくない顔見知りがテーブルに近づいて来た。毎回学説や通説を否定するような自論を打ち立てて、それを証明しようとやっきになって依頼してきては失敗を繰り返している野心家のシャーレアン大学の助教授だ。手に書類を持って近づいてくるところを見るとまた何か依頼しに来たことは分かったが、あえて気付かないふりをした。
「おはよう、また妙なところで会うわね」
「あ、…ぅん、そうだな、もう昼前だが…」
先手を打たれたことで彼が彼の中だけで立てた仕事依頼マニュアルが崩れたのか、出鼻をくじかれ少し返事にどもった。
「久しぶりのゆっくり優雅な朝を邪魔する気じゃないよね?」
相方がすかさず牽制する。だが彼はそれに気づくほど繊細な男ではない。
「ああ、今日はゆっくりしてもらって構わない」
「今日は?」
仕方なく休みを認めた上司のような言い方にちょっとムッとしてあたしが言ったが華麗にスルーして続けた。
「実はまた頼みたい事があってね。学会騒然間違いなし」
「別に学会を騒然とさせたい訳じゃないんだけど…」
スルーされたこともムッと来たが、あたし達を仲間だと思っているような口ぶりにも反発したくなって眉間に皺を寄せた。
「まぁ、聞いてくれ。君たちは、夜空に見える流れ星が、遠い宇宙の果てから飛来してきた石だと知っているかね?通常は大気圏で燃え尽きるが、大きければその限りではない。特に山の如く大きな巨岩が落ちてきた場合、燃え尽きずに地表に落着し、大爆発を引き起こすんだ。その際、植物の種子を含む土が、成層圏を突き抜けて星外へと弾き飛ばされていたら?そして、月面へ到達して花開いたとしたら?」
「なんだか似たような話をこないだ聞いたような気がする…」
相方がぼそっと言ったが自分の言葉に興奮し始めた助教授の耳には届かない。
「結界やゾディアークが放っていた特殊なエーテルを浴びながら長く時が経てば芽を出したサボテンダーも、ルナテンダーへと進化するはずだと思わないか!是非ともこれを証明したい!そして花咲く「ルナテンダー・クイーン」の存在を証明したい!力を貸してくれ!」
「また月面の話?」
そういえば月面を探索していた際に、色鮮やかに光る歩くモヤシみたいなヤツを見かけた。大きさは3m近かったと思うが遠目だったのではっきりはしない。空の黒と月面の白しかない世界でキラキラと7色に輝く姿は異様だった。あれが彼の言うルナテンダークィーンだとしたら出自はともかく、特殊なエーテルを浴びた突然変異という事だろう。突然変異種はどんな力を持っているのか未知数で危険だ。これは断わ…
「今回は報酬とは別に謝礼としてシャーレアン大学の図書館を自由に使用できるよう口きき…」
「もちろんやるわ!学会を騒然とさせましょう!」
彼の手を両手でガッシリ掴んで反射的にあたしは答えた。
助教授もその反応には驚いた顔をしたがもっと驚いたのは恐らく相方だろう。だがイディルシャイアのグブラ幻想図書館に続き、知の宝庫であるシャーレアン大学の図書館まで自由に出入りできるようになるという事は、現存する古文書で見られないものはなくなると言っても過言ではないのだ。こんなチャンスは滅多にない。
「扱いを掴んできたわね…」
相方がため息混じりに言った。
あたしは休日を潰されて不満気な顔であたしを見る相方に気付かないフリをした。